岐路
ヒヤシンス
屋根裏の小部屋の窓から、表の世界を眺める。
そこには、競争があり、強奪があり、また征服があった。
人生の秘密は悉く暴露されていた。
私は頭では当然の事だと思いながらも、心は深く病んでいた。
静かな湖面に投げつけた石が波紋を広げるかのように。
翳りゆく町の中で街路樹の葉もその生命を終えて朽ちてゆく。
今の私は、愛においては傍観者であり、優しさにおいては偽善者であった。
自分の存在を見失わないよう必死に現実の灯火を消すまいと努力している。(努力とは?)
現実を生きる為にこそ現実の中へ逃げ込もうとしている私に、
憂鬱をのせた春の風は生ぬるく、その思考をたわませる。
屋根裏部屋の閉塞感はそのまま心の閉塞感となり、机上の花も朽ちるのだろう。
壁に掛けられた絵画は真実から遠く、庭に面したテラスへの入口は閉ざされた。
ただ一つ、静寂を奏でる時の清流だけが私の癒しとなり得るか。
心とは厄介なものだ。
欲求、渇望、羨望、憧憬、喪失、諦観、寂寞。
年月と共に薄れゆくもの、逆に濃度を増してゆくもの。
神々しい落日の中、希望に満ちるもの、淋しさを募らせるもの。
自身でさえ触れられぬ心に支配され、決別すら出来ず、人生を共にする。
それならば私は信じよう。いや、信じる事しか出来ない。
閉ざされた全てのものを解放し、黄昏る思考はそのままに、感性の翼を広げよう。
現実の世界に真実を探求し、表裏一体、愛する言葉を掲げよう。
全ての人々に潤沢な日々が訪れるように。
祈りの中で全ての魂が解放されるように。
屋根裏部屋の傍観者であった私の鼻腔に机上の花は香りを放ち、
全ての扉は開かれた。もはや傍観者ではいられない。病める魂の所有者であった私に、
今まさに人生の岐路を示す正しき道が現れ、白く美しく輝いている。