アルカディア
そらの珊瑚

そのわらべうたは
作者不明だという

畑に添って
作られた石垣
その隙間から
シダやペンペン草が顔を出し
しっぽがふたつに別れた小さな虫が
忙しそうに出たり入ったり
雨が降れば
水の出口になり
乾けば
新鮮な空気をとりこんで
ふたたび呼吸を始めるだろう

この石垣を作った人の手を
私は知らない
知らないけれど
息遣いに触れてみることは出来る
緑苔が広がったそこは
まるで洗いたてのびろうどのように柔らかい
幼い日
小さな足たちが幾度もそこを飛び降りた
――飛んでごらん
自分の背丈より高かったそこは
勇気を試すかのように誘った
もちろん背中に羽はなかったし
私の脚にはいくつもの傷が刻まれた
衝撃が石垣に及ぼす圧力の数式はたぶん存在し
人に踏み固められるたびに
強くなったに違いない


石の形は
ひとつとして同じものがない
自分が
この世で一人しか存在しないように
パズルのように
積み上げられたそれは
壁であり
労働であり
棲家であり
時間であり
今も境界面で在り続けていた

わらべうたのような景色が
春の風を無心に吸い込んでいる


自由詩 アルカディア Copyright そらの珊瑚 2014-04-18 09:43:15
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