エクスペリエンス・レクイエム[或いは]君と僕の円環
ゴースト(無月野青馬)

レイアウトを女性誌からトレースしたような
ヘブンズ・ドアの使い手のような君と
街道を散策
古書店
雑貨店
ランチは
イタリアンにして
君は大学病院で言われた診断を元に
チキンとドライトマトのジェノベーゼ(バジルソース)とあと何か1つを頼んだ
僕は緊張して
なかなか注文が決まらなくて
マルゲリータと
ペペロンチーノにんにく片(小)と震えながら言った
するとウェイターが
こういう時にペペロンチーノはどうなのですかと
逆に訊いてきて
僕はぐるぐる
緊張の極みで
動悸が止まらなくて
思考が出来ないから
ペペロンチーノを止めて
マルゲリータを2人前頼んだ
白ワインとチーズなどで食前を過ごしながら
1対1の空間に
慣れようとしていた
君はあらゆる女性の集合体のようで
あらゆる女性の希望的な煌びやかさと可憐さと包容力と
あらゆる女性の怠惰と堕落と悲劇性の影とが
折半して出来上がっていて
だからとても魅力的で豊沃で
僕は緊張して
手に汗握って
目を見れなくて
話も何も出来てなくて
サバンナで狙われるインパラみたいで
気配りなんか1つも出来なかった
それなのに
何だか時間をキング・クリムゾンに一気に削り取られたみたいに
いきなり
予約していたホテルの部屋の中に居た
僕に何が出来る
僕に何が出来る

呪詛のように呟きながら
僕は待っていた
君は
シャワーを浴び終えて
出て来る
そして
インパラを狙うメスライオンみたいに
一直線に
近付かれて
その真っ直ぐな目に
自分の中の
あらゆる弱さを
鷲掴みにされたようになって
脊髄も大腿も動脈も海馬も舌も
鷲掴みにされたようになって
僕は動悸が止まらなくて
硬直したまま
ヘブンズ・ドアを受けて
受けながら
思っていた
あのウェイターみたいな
仕様であれたら
経験があったら
余裕があったら
軽やかさがあったら
きっと
君と
リズムと呼吸と心を合わせて
野獣のダンスを踊れたのに
黄金の時を過ごせたのに
強い君にだって
まだ見ぬ未知がある筈だから
まだ見ぬ未知を
まだ見ぬ宇宙の一部分を
あのウェイターのように
見せてあげられたかもしれないのに
新しい神話を、マルゲリータを
君と僕で
白いシーツの上で
一瞬を悠久に伸ばして
悠久を一瞬に縮めて
創世出来たかもしれないのに
ドッピオみたいな僕は
メイド・イン・ヘブンに呑み込まれた物質のように
渦を巻き、回転し
一巡したようになって
放心状態で気が付いた
朝だった
君は居なかった
飲み薬の空き容器だけが
特異点なのか
枕元に置いてあった
窓の外
行き交う人達が皆
あのウェイターと同じ顔をしているように見えた
行き交う人達が皆
あのウェイターのように
余裕があり
経験があり
認められた仕様があるように見えた
窓の外では
あらゆる
“気まずい時間”という名の爆弾が
ウェイターの元に戻っているように見えた
つまりバイツァ・ダスト
僕は
キング・クリムゾンを待つ
そして
君を待ち続ける






自由詩 エクスペリエンス・レクイエム[或いは]君と僕の円環 Copyright ゴースト(無月野青馬) 2014-04-18 04:11:18
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