桃太郎
春日線香
迎えにきた おまえを
切っ先を腹に埋めこんでいるさむらいを
かつて桃太郎と呼ばれたおまえ
殿様の不興を買ったおまえ
梨の木の下で死を待つおまえ
おお おれは鬼の屍
といっても はじめから鬼は屍であって
屍の生が鬼であるだけ
退治られても生きているのだ
水面に映る月のように
さてもさても 行こうじゃないか
因縁を忘れて 刀を折って
こぼれた腸はまた収めればいい
生前の恨みはすべて山へ捨てよう
枯れ木に花を咲かせるだろうさ
今日からわれら鬼
ともに人の世をあざ笑い
酒食に溺れて時を過ごそう
そのうちおまえの額にも
立派な角が生えることだろう