なかなかむらむらこない
末下りょう


ヒサカキは塩ラーメンの粉末スープの匂い
ウグイスのさえずり
鋭く 、

ハルリンドウみたいな
森ガール、山ガール
シャンプーの香り?


数羽のカワウは巣材をくわえて池を越えてく
糞で白く塗られた木々
ショウジョウバカマ

シキミが生える楕円状の日だまりに入り
明るい役立たずになる
菩薩の賽銭箱にとまるヒオドシチョウの痙攣に耐え
小銭を投げて手を合わす


シュンランの近くに不揃いの石で囲まれた水溜りがあり
ヒキガエルの卵塊が水に沈んでいる
その半透明さにうながされ
つま先が澱む泥にささり
輪郭だけを保ちながら手放しで断片となり
吐き出される

張り巡らされた草木の隙間、
高層ビルの一群が遠くに見える
足の痛みを我慢して
立っている

きみの家の緑色の屋根を見つけようとしたけど
方角がちがった
きみは髪を結んで
黙々と食器を洗っている


じきに雨が降れば
オタマジャクシが森に拡がり、ヒキガエルたちが目を覚ます
体表にビー玉みたいな雨粒を受けながら
抱接の重量をリコールするために


それにしても中村は来ない
なかなかむらむらこない




自由詩 なかなかむらむらこない Copyright 末下りょう 2014-04-16 22:41:56
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