なかなかむらむらこない
末下りょう
ヒサカキは塩ラーメンの粉末スープの匂い
ウグイスのさえずり
鋭く 、
ハルリンドウみたいな
森ガール、山ガール
シャンプーの香り?
数羽のカワウは巣材をくわえて池を越えてく
糞で白く塗られた木々
ショウジョウバカマ
シキミが生える楕円状の日だまりに入り
明るい役立たずになる
菩薩の賽銭箱にとまるヒオドシチョウの痙攣に耐え
小銭を投げて手を合わす
シュンランの近くに不揃いの石で囲まれた水溜りがあり
ヒキガエルの卵塊が水に沈んでいる
その半透明さにうながされ
つま先が澱む泥にささり
輪郭だけを保ちながら手放しで断片となり
吐き出される
張り巡らされた草木の隙間、
高層ビルの一群が遠くに見える
足の痛みを我慢して
立っている
きみの家の緑色の屋根を見つけようとしたけど
方角がちがった
きみは髪を結んで
黙々と食器を洗っている
じきに雨が降れば
オタマジャクシが森に拡がり、ヒキガエルたちが目を覚ます
体表にビー玉みたいな雨粒を受けながら
抱接の重量をリコールするために
それにしても中村は来ない
なかなかむらむらこない