伝言
山部 佳

小学校の教師は
満州の寒さを語った
近所のおっさんは
突撃の仕方を語った
母親は
配給の乏しさを語った
父親は
出征の誉れを語った

街では
白い軍帽を被った脚のない人が
人通りの前に白い箱を置き
アコーディオンで軍歌を奏でた
物悲しいメロディは軍歌とは思えなかった
なぜか目を伏せて足早に通り過ぎた
私は少年だった

「大空襲の夜は
都会の空が真っ赤に染まった」
「甲子園が
見渡す限り甘藷畑になった」
祖母は平塚らいてうの信奉者だったが
父は七つ釦に憧れていた
私は雑駁な少年だった

そんな話を聞かせてくれた
懐かしい人々はみな
あちらの世界に行ってしまった

ゼロ戦のプラモを
熱心に組み立てながら
ケネディ大統領を
尊敬していた
雑駁な少年だった私が
子供らに伝えようとするものは
もどかしさの向こうで一人相撲をしている

しかし
少なくとも
虚構の大義ではない


自由詩 伝言 Copyright 山部 佳 2014-04-15 22:37:26
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