給料が労働の対価だなんてとても思えなくて　一日が終わった解放感と　夕飯と入浴と睡眠が何よりの報酬で　さらには空いた時間の読書や芸術鑑賞　その時間が空くということもまた何よりの報酬で　長いこと農業をやっていましたが　肉体労働の後の家族の団欒と疲労回復　それこそが報酬だと信じてました

責任を負い合う相手が変わりました　かつて研究をしていた頃は　故人に対して文字を受け止める責任を負い　かつて農業をしていた頃は　自然に対して互いに育てあう責任を負い　今ではたくさんの人々に対して　気遣いとあいさつと連絡をし合う責任を負っています　責任の改組は陽射しや季節の変化のよう

人々との絶え間ない交渉の中で　孤独など消え去ったかのように思いますが　分かり合え笑い合えるほどに　深まる孤独というものがあります　孤独は満たされると同時に一層深くなっていくもの　他者との連帯が大きくなればなるほど　その鏡像として孤独もまた肥大化し　だから人はたまに自然が欲しくなる

心を遣うということは　心を利用するのでもなく　消費するのでもなく　心を派遣するのでもなく　心を喪失するために緊張させることに他なりません　心を遣う度に失い疲労する　もちろんそれに対しては　相手の心も遣わされますが　互いに笑い合っているとき僕らは　互いの喪失を確認し合っているのです