新宿の地下室にて
服部 剛
地下へと続く階段の脇には
だらり、とぶら下がった黒いコンセント
に結ばれた、赤い糸
地下のさびれたライブハウスでは
音程の狂った歌手が
あの頃のみっともない僕みたいな
コッケイな恋の溢れを唄ってる
*
今宵の僕は
歌舞伎町の怪しい夜風の掌に
ぬらりと首筋を撫でられながら
ふらりとここまで、すり抜けてきた
さびれたライブハウスに、入れば
カウンターには久しい友が
古書を開き、薄茶けた頁から
時を越えて語る
ニーチェの声を、聴いている
*
そうして僕等は琥珀色のグラスを
互いに、重ね
これからの旅路で詩うべき言葉について
カウンターに頬杖ついて、思案する――
*
歌舞伎町の、さびれた夜の
ライブハウスの暗い中空に
エコーする、浮遊している
もののけ達の声