夜の蜘蛛
イナエ
1
指先の吐き出す音は
宇宙で絡み合う
としても
糸の無い繋がり
華やかな彩りも
時の経過に
消える夜の虹
孤高の富士は
大地に根を張り
世界の山々と融合するけれど
彼方から降りしきる情報は
脳内に吸い寄せられ
パチパチ爆ぜて
未熟な願望に呼応し 共鳴して
出現するとしても
幻想の風景
音の先に見詰めあう眼は
手を延ばせば遠ざかり
あるいは
指がぶつかり合って
ノイズに揺れ 風に揺れて
淡く宙の淵に沈み
崩壊した幻想の
亡骸は大地に渦巻く風に吹かれ
宙の渚を彷徨い
銀河の醸し出す波へ消えていく
2
国道を走る車の音は途絶え
人の生命が休息する静寂に
尖ったかぎ爪に吊された昨日の夢が
今日にしたたり
沸き上がる霧が
不確かな明日を幻想する
鉢底からはみ出した根は宙を這い
広がった枝が隣の鉢を押し倒
枝先の子房から拡散するアレルゲン
むせ返りせき込む蜘蛛の
シャベルのような顎に
砕かれた夢のさざ波は
干渉と増幅を繰り返して
鼻腔を通過する
蜘蛛の臀部から
吐き出された糸に
絡み着かれた皮膚は
神経を弾かれ痙攣する
不規則に収縮する心臓が
送り出す液体に血管は硬化し
水流は肺に滞る
窮乏する酸素に大脳が震え
幻想が沸騰して
明日の夜空へ
声帯を震わせ
ベッドを呼び寄せる