傾向と対策
末下りょう


ヘッシャーに聞いた話だ。
そいつは水槽で蛇を飼っていた。餌はアルビノの二十日鼠だ。
蛇が鼠をまるごと呑み込むと蛇の腹?が鼠形に膨らみ、暫くは動くらしい。
そいつは何時ものように腹を減らした蛇の水槽に鼠を一匹放り込んだ。
自分は宅配ピザを頼み、テレビを観ながらビールで流し込んだ。
トイレに行くとき水槽を見ると、まだ鼠は蛇から逃げていた。酔いが回り、ソファで寝落ちして、朝、目が覚めてトイレに行く途中、水槽を見ると、まだ鼠は生き延びていた。
まあそんな事もあるかと思い、面白がって放っておくと、
ちょうど二十日後に蛇は餓死して、そのアルビノの二十日鼠は生き延びた。
こいつは二十日鼠の王だと確信され、朝の庭先に放たれた。



夜、真の、夜のなか、その女のすべてのドアと窓は開いていた
すべてのカーテンが開かれていた
女のなかは暗い
白も黒もない、(際立つ蜜の
カヲリを放ち、妖しく
暗赤の捕虫袋を膨らませ
袋の襟口をつたう獲物は
光る腺毛に運ばれながら
酸のなかにすべり落ち
スープに、分解する
虫ケラ)

女の小さな庭には、犬小屋があるが、犬はいない
女のまえで足をとめ、深爪の指でインターホンを押すが
なにも返事はない
物音が微かに聞こえてくる
汗が冷たくなる
月明かりもなく、帰るための道はない
いつもなにかを見落としている

蛍光灯の光のなかで
影から眼をそらすことはできない
リードを引きずる犬が横切る
アルビノの二十日鼠を
口に咥えて



自由詩 傾向と対策 Copyright 末下りょう 2014-04-03 04:18:02
notebook Home