理容店
山部 佳

苔むした三色ねじり棒が
時折脈動しながら回っている

脳天の禿げた主人は
「皮脂がいかんのですわ、皮脂が」
と、言いながら
頭髪の洗い方を指南するが
なぜ実践しなかったのだろう
と、不審に思う

うなじを剃られるとき私はいつも
志賀直哉の小説を思い出し
公儀介錯人の拝一刀を思い出す

映画やドラマの脚色によれば
首をちょん切った瞬間にぴゅうーううっと血が飛ぶのだが
せいぜい130mmHg
大気圧の6分の1
こんなたかが知れた圧力でぴゅうーううっと血が飛ぶはずがない
と、私は思うが
演劇の脚色としては やはり
どろどろっと搾り出す老人の精液よりも
若者の どぴゅどぴゅどぴゅーん のほうが
説得力あるわな
と、ひとり納得する

ねじり棒の色の由来が
動脈と静脈と包帯なのだと主人はうれしそうに話す
フランスの国旗でないことに私は少し安心し
マリー・アントワネットのちょん切れた首を思う

苔むした三色ねじり棒は
降りだした雨に濡れ
火花を散らして息絶えた


自由詩 理容店 Copyright 山部 佳 2014-03-23 11:10:10
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