クリーチャーズ
末下りょう

-わたし、塔の上から落ちて、どうしても地面まで届かない夢をみましたわ。そして夢から覚めるとまるで本当に落ちたみたいにぐったりしているんですの-
(ドン.キホーテ 第1部 16章/宿屋の娘)



水槽に閉じこもる街角にスコールは
降り、硝子が曇る

クロールする
びしょ濡れて
生ぐさい
水の匂ひ、嗅ぎ

原発のサイレンは硝子に反響して
街並みを揺らす小刻みに
(Denuclearization)
(no nukes!)
赤字のプラカード 、
デモの波

ヌウドにガウンで
行進にまざる女は、ユクエシラズ
光のない星を
追った
男は、ユクエシレズ、部屋のソファーに埋もれながら
世界に交通事故が一件も発生しなかった
24時間を24時間想像している
肌の欠落
SFXのクリーチャー、
粘液クチクラ
綺麗
女は

閉鎖するパーキング、11、に
幽閉された
X白い廃車の縦に割れた
フェンダーミラーに
映る、風俗ビルの
片隅に積まれたポリバケツの
影に住む猫の瞳に
移りフェイドアウト

ユクエシレズな
(私)は ユクエモシラズ
(森の中で道に迷うように
水槽の中で)ガラスの破片に
足を切られ
点点と、赤いマー.キ.ングを.残しなが.ら
すぐに雨に消され
彼から姿を
クラマスの.
.
雨音は閉じた笑い
信号は赤く点滅、
いまごろ彼はホテルの部屋で
ウツラウツラと糞尿で濁る
便器の水面に浮かぶ
金魚の白い腹を
見てるの
きっと
忘れられた
狭い遊歩道から
TAXIに、手
手を触れることなく
炭酸の弱まった
シャンパンを収めた
細長くよく磨かれた
グラスに歪んで
写る、壁に掛かる
海岸の風景画の中、水着姿で
ビーチに寝そべる
男はその青い海の彼方に
居るはずのやつれた男が
(チープな現実の提立を無視して
、実生活に大胆な括弧を施し、
超然として中和の空気を吸いながら、
無目的な又は無関心な自律的遊戯をしている)
ポーズを想像する風景画を
ぼんやり眺める
男は映画のエンドロールに
流れる曲を聴き流しながら
誰かが必死で涙を流そうとして
結局涙を流せないでいる夜の涙から
吹き込む風を乾いた網膜がやり過ごせずに
流す涙のユクエワシレズ
戻らない(女)は、
誰にも拾われず
熱にうかされた
人波、すり抜け
ユクエシラズ(女)は

夜の海の浅瀬の底の沈没船のような
ショベルカーに
触れ、泥まみれの
埋立て地に
戯けて、よろめき
ころび
ほころび

溺れたふりで
そっと
さめたふくらはぎに触れてくる
世界と、目配せを交わす
落下するなら
すべてに遅れながら
分解する泥の
クリーチャーズを 、
別世界に贈る
TAXI、は空車から回想に


自由詩 クリーチャーズ Copyright 末下りょう 2014-03-21 06:28:15
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