セリヌンティウスの告白
末下りょう

世界でいちばん歩くのがおそい国はアフリカのマラウイ共和国だそう。国民の平均歩行速度2.05km/h。日本人の平均時速の半分以下。マラウイ共和国は空港にすら時計がなく、もちろんみんな腕時計なんかしてない。太陽をみればわかるらしい。曇りや雨の日はなんとなくで、HIV感染率の統計が1/10の国をみんなのんびりと歩いている。


中学2年生の村田一真くんの論文(メロスの全力を検証)が算出したメロスの平均速度は3.9km/h。走るどころか歩いている。村田くんは、論文の感想で、(走れメロス)より(走れよメロス)のほうが合っているなと思いましたと述べ、大人達は感心した。


中2の村田くん。でもそんな事は知ってるよ。とっくの昔から。作者も。メロスは走れ、走れ、と色んなところから言われ、自分でも(雨中、矢の如く)(黒い風のように)走っているつもりだけど、(愛と信実の血液だけで動いている心臓)は、脈打つように歩いていた。裏切りのなかを走るように歩いていた。(人の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ)と自分を疑い、恥じながらなんとか歩いていた。走れ、走れ、と言われながら。カッコつけて、自分で蒔いた種で友を巻き添えに、信頼と裏切りのただなかを必死に歩いた。間抜けなメロスは、走れ、走れ、と急かされながら走ってる気になって歩いた。

人間は自分より器の大きな人間の器を、決して計ることが出来ない。
自分より器の小さな人間同様、バカに見えてしまうから。


中2の村田くん。僕たちにはメロスはバカにしか見えないかもしれない。メロスを真の勇者だとおもう人のことも、僕たちにはバカにしか見えないだろう。中2の村田くん。しかし僕は(走れよメロス)という村田くんの中2の中2病的感想や、それを(うまい!)と手放しで喜ぶ大人達がバカにしか見えないバカなのだ。

中2の村田くんの論文上、メロスは太陽の位置を頼りに、時をはかり、歩いて、友の待つ場所に戻った。平均3.9km/hで。圧倒的にバカな器。マラウイの人々は、太陽の位置を頼りに、朝、仕事に出掛けて、家に帰る。平均2.05km/hで。のんびりしていて羨ましいけれど、いまの日本でこんな人がいたら多分のろまなバカに見える。器がちがうから、国の器が。圧倒的に。メロスの中2病の作者の中2病のように圧倒的に器が。だからそんな論文の感想でウィットにとんだつもりの(走れよメロス)発言を、疑い、恥じるバカになれ、中2の村田くん。バカの壁を破るのはいつだって破格のバカだ。器のちがうバカに憧れろ。少女に緋のマントをかけられ、裸の心が赤面してもなお


散文(批評随筆小説等) セリヌンティウスの告白 Copyright 末下りょう 2014-03-18 05:58:38
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