かまってよ
bookofheaven

※悪趣味にとられるかもしれません。さわやかではないです。すみません。



深夜のコールセンターは広い室内にぽつぽつ人がいるだけの
昼間の騒ぎの熱気が天井あたりに淀んだ感じで
フル回転の空調も疲れてる。
誰も来ないし
誰も行かない。

誰もテレビなんて見ないんじゃない?
忘れられてるんじゃない?
電話の音がしないコールセンターで
ひとつ席を置いて隣り合ったオペレーター同士は
おしゃべりしている。

テレビ通販は深夜のケーブル。
無難な時代劇チャンネル。
予定時刻に無事放送されて、あちこちでコール。
赤く点滅する電話機の着信ボタンを確認して
2コールで受話ボタン オン。

ーーはい、こちら○○通販。ご注文ですか?

片耳をふさぐヘッドセットからは小さなノイズと
とりつくろったような荒い息づかい。
ああ来たな。来ちゃったな。

ーーお客様? お電話つながっておりますよ。

ーー(はぁはぁ)ねえ、あんた母乳でる?

ーー(今日はどうしようかな)
  お客様、お電話遠くて聞こえないようなんですが
  もっと大きな声で言っていただけますか?

ーー(はぁはぁ)母乳でる?

ーーあの、すみません、ノイズ多くてですね
  もう一度いいですか?

ーー・・・・。

ヘッドセットのノイズは消えて、電話機は沈黙する。
一斉に鳴りだしたコールの嵐なんて、さざなみ程度で終わってる。
オペレーターはため息をついて隣のオペレーターを振り返る。

「今日の”母乳くん”は根性ないわ。せっかくかまってやってんのにね」
「あーちょっと前に、その人相手したわ。
 ”残念!もう出ません!”って言ったら切られた」
「相手、笑った?」
「無言。」
「なに、つまんないヤツねぇ」
「次の手考えてんじゃない?」

かまってやってんのに、かまってよねえ。


自由詩 かまってよ Copyright bookofheaven 2014-03-17 10:39:58
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