◎小指の約束
由木名緒美

私の指先から金貨がこぼれ
あなたの乾いた唇を潤せたら
頑健な牡牛が黒いつむじ風となり
私の魂を運んでくれたら
世界は午睡のまどろみの狭間、神秘の唾液を垂らす
こめかみを濡らすその体温にあやされ
幸福な卒倒に意識を委ねた

しん しん しん

開くはずのない門戸
鳴り止まない電波塔
従順な羊の遁走は
躁感覚の失念を
免罪に芽吹く牧草に委ね
そのすべてを食い尽くした

紙飛行機で知ったあなたの訃報
手を洗い衣服を変えても
彼岸の斉唱は耳を聾するばかり
白くなりゆくあなたの手に
そっと指を絡ませる

両手に包んだ保護着信が
灯された思考の星列を乱してしまわぬよう
息を吹きかけては、その微粒子の瞬きに目を凝らす

あなたが心待ちにしていた
最後の一筆の肖像画は白い瞼のまま
午睡の眠りは微笑むように色を塗り替える
握る手の温もりもあらわな夢は
雲の上など表町の辻よりも傍らにあると
永遠の別れを呑気な癖で指先をふる

 「あなたがのぞむならずっとてをにぎっていてあげるわよ
           いきているっていうのにいくじがないのね」






自由詩 ◎小指の約束 Copyright 由木名緒美 2014-03-02 03:27:19
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