三ッ石にて
そらの珊瑚

 太平洋の荒い波が
 かつてひとつであった石さえも
 みっつに分断させたのよ
小説家志望の女の子の戯言が
ここでなら
信憑性をもって
語りかけてくる
干潮時にだけ現れる
海の通路を渡りながら

海に溶けた塩は
なめればしょっぱいし
うっかり目に入ろうものなら
思わず悪態をつきたくなるほどの痛さだ
だけど真水では沈んでしまう塊が
塩水であるがゆえに
浮かび上がって踊ることがある

潮だまりに取り残された
奇妙な形の生き物は
(彼らからみたら人間のほうが奇妙な形であると思うが
 必然の形というものはいつだって美しく奇妙だ)
神から与えられた日曜日を
のんびりと謳歌しているが
それとて
月曜日を待たずに
飽きてしまう種類のものだ
陽に照らされて
プールがぬるま湯になっていくころ
ふたたび潮は満ち
天を向いて
大きな波の到来を
身一つで待っている
淡水魚にはなれない個体

僕の自意識は
ここらへんのサザエの角みたいに
尖っているから
海底のくぼみにしがみついている
それでもいつか
丸くなったら
カモメに食べられてもいいかなと思う
そんな残骸が
時折岩場に落ちている
そう、螺旋の実体を押しとどめている
蓋のようなものだよ
裏に渦の模様が描かれている、あれ
女の子は
それを拾っては
トラピスト修道院の飴の空き缶の中に
手柄を立てるみたいにして入れるのさ
 世界で一番そこが最適な箱
 ねえ、ふってみて、いい音するでしょう
女の子の戯言は
やっぱりつまんないし
バター飴がとても甘いのは
ほんのわずか塩を加えているからって
ひそやかな隠し味に気づくまでの時間に
君はあちこちまだらに虫歯を作ってしまったようだけれど
全てを台無しにしたわけじゃないだろう
僕はあくびを噛み殺して微笑んでみせた
ここからの岬の風景は
相変わらずみっつの石が在るだけ
それらに渡された綱は
びょうびょうと唄って結界を張るという
だけど
どこへもいけないからこそ
おそらく変わることのない原生林が
閉じる半島の
(真水と塩水が混じり合う場所)
先端で紡がれる奇岩の物語として
そう悪くはなかったし
やはり必然の形というものは
美しいと思う



自由詩 三ッ石にて Copyright そらの珊瑚 2014-02-17 11:31:31
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