春の小川と春の青空
ichirou
公園で母と子が手をつないで歌を歌っている
私は5歳の時
3ヶ月間入院生活を送っていた
当時の大学病院の小児病棟は
母親が付き添う様になっていた
私には3歳と生後5ヵ月の2人の妹がいた
3歳の妹は
その間転々と親戚に預け回されていた
生後間もない妹は
叔母の家に預けられていた
私が退院した後
いつも通りの家族に戻った
父は帰りが遅かった
家の中は母と私たち兄妹3人だった
8ヵ月になった下の妹はいつも泣いていた
母に一向に懐こうとはしなかった
母も泣いていた
私は母が泣いている理由を知っていた
ある時私は母が側にいないときに
下の妹の足をハタキの柄でぶった
妹は大声で泣いた
母は慌てて戻ってきた
状況に気づいた母は
ハタキを握りしめていた私の右手を叩いた
私も妹も大声で泣いた
3歳の妹は無口になっていた
よく知らない親戚に預け回されていたために
吃りになっていた
家の中には笑い声はなかった
それからしばらくして
母は毎日妹と歌を歌うようになった
母は歌を歌うと吃りが直ると
嬉しそうに歌う理由を教えてくれた
歌う歌は
春の小川だった
相変わらず
家の中には笑い声はなかったが
いつも母と妹の歌声があった
下の妹が1歳になるころには
もうすっかり母に懐いていた
上の妹は4歳になっても
吃りは直らなかったが
口数が少しずつ増えていった
家の中には
いつも母と妹の歌声があった
公園で手をつないで歌を歌う母と子の上には
青空が広がっている