マリア
藤原絵理子

きみの旅が終わる時
黒ずんだザックの中には
通り過ぎてきた街の悲しみが
薄汚れた上着のポケットには
誰にも見せたくない たからもの
それはきっと
今のきみにとって
おおい隠してしまいたいもの
だけどきっと
いつか未来のきみが
やさしい雨で育てるもの

疲れ果てたからだを
あたたかい言葉のシャワーで
こころに貼りついた鎧の残骸を
聖母マリアの抱擁で
そのままのきみを
まるく包んであげたい
あたしの髪も腕も胸も
今夜は
そのためにあるんだから

幼い子供のように
声をあげて泣いてもいいよ
刻まれた傷の痛みに
怨みごとを言ってもいいよ
オトナぶった顔をして
すべて押しこめるのがオトナじゃない
そんなことで
瞳のかがやきを失くしたら
きみがきみである意味がない

夜が明けて
鳥がさえずり始めたら
梢をわたる風の詩が
また きみをいざなうだろう
こころがゆらゆら揺れ始めたら
洗いたてのザックと上着で
また 旅に出ればいいよ
あたしは白いドアをあけて
いつものように
見送ってあげるから


自由詩 マリア Copyright 藤原絵理子 2014-02-13 23:53:28
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