パラサイト
藤原絵理子

硝子板の上の小さな池で
草履虫が草履虫を食べる

部屋には誰もいない
かすかに染み付いた酢酸臭がする
壁には飛び散った硝酸銀の痕跡
古代の半島を描いている

午前11時の憂鬱
あたしは草履虫を数えなければならない
寄生虫は くねくねと着飾って
美術館にでかけて行く

ガラス張りの特別室から
仲間の寄生虫らが くねくねと眺めている
玄関にハイヤーで乗り付けるのが
たまらなく快感である

単なる学芸員をキュレーターと呼び
模写の印象派絵画に一瞬だけ感動する
後は くねくねと巴里の香水について雑談する 
モネとピサロの違いすらわかっていない

昼休みにクリックすると寄生虫のリスト
何種類もいることを知る
あたしには草履虫の数をデータにして
本庁に報告する任務がある

くねくねと絡み合った寄生虫らは
優雅にティーカップを摘み上げ
午後の紅茶を くねくねと飲み干す
夕焼けの終わった空が瑠璃に変わる


自由詩 パラサイト Copyright 藤原絵理子 2014-02-13 21:31:07
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