黒い掘削船
ただのみきや

掘削船がやって来る
おれの堆積した泥土を掘り返す
脳だけクラゲの揺蕩いで
光の海に温む予定が台無しだ

  山の麓に猫女が住んでいるという
  噂の真相を求めて捜す者も多いらしい
  捜してみるとすぐに見つかった
  猫女は父親と母親と一緒に暮らしている
  訪ねて来たと伝えると
  馴れたもので母親は部屋へ案内してくれた
  襖を開けると床が敷いてあり女は臥せている
  猫女は病気なのだ
  体中から猫の頭が生えてくる奇病
  タタリ ではなく アタリ
  魚信アタリだよ!
  E弦A弦D弦G弦全て鳴り響け
  ニッパーよ笑えフレットは抜け墜ちろ血を通わせろ
  理性はスライドを繰り返し激しく回避する
  失語故の叫びが重複したディミニッシュの翳りに
  これは眩暈じゃなくてビブラートなんだ(あざといね)
  悪いのはアタマじゃない指先なんだ(まともなんだ)
  バイブルを捲るのもビブラートをかけるのも
  Rの発音もみんな先端から沸々と発芽する葛藤なんだ
  にゃごにゃごと猫頭を撫でじゃらす咥え魚の愛人よ
  空虚な立脚点へこすり付ける
  コレハオレノニオイ だが
  釣ったり釣られたりしながら像にならないもの
  逆巻くはみ出すクロニクルは
  くびれた疑問の群生地となり 果てる

掘削船が去って行く
残された干潟の心象に
蟹のようにぞろぞろと奇態な言葉が湧き孵るが
どれも伏し目がち 斜と廃のアングル

   
     《黒い掘削船:2014年1月26日》






自由詩 黒い掘削船 Copyright ただのみきや 2014-02-11 13:31:53
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