この春に
板谷みきょう

わたし19のこの春に 
命を捨てに参ります 
積丹半島 神威岬 
念仏トンネルくぐって行きます

わたしの好きなあの人は 
関係ないと言ったけど
耳の聞こえぬそのことで 
あの人の親が反対しています

聞こえぬことは運命だと 
諦めることも出来ようが
彼と別れるそのことは 
運命にしてもあまりに辛い

わたしの好きなあの人と 
この世に二人きりならば
親も世間も気にせずに 
このまま二人一緒になれたのに

仕事をしようと思っても 
ろう者と知ると断られ
やっと見付けた縫製工場 
手真似の話で職場の人が

手真似で話をしていると 
みんなが指差しコソコソと
手真似で話をすることが 
そんなに可笑しな事なのでしょうか

聞こえぬしゃべれぬその他の 
何処が違うと言うのでしょう
誰も解ってくれなくて 
解ってくれたあの人も今

泣いてこの世を恨んでも 
父さん母さん恨んでも
今更変わる術もない 
どうにもならない仕方の無いこと

自由・平等・民主の旗 
掲げた国のはずなのに
人と生まれたそれだけで 
何も隔たり無いはずなのに
福祉国家と言われても 
最大多数の幸福で
そこからあぶれた者達は 
恨む当てなく泣き寝入り
なのに今も 誰も解ってくれない

わたし19のこの春に 
命を捨てに参ります 
積丹半島 神威岬 
念仏トンネルくぐって行きます
そしてわたし あなたの笑顔を胸に秘め

わたし19のこの春に 

わたし19のこの春に


自由詩 この春に Copyright 板谷みきょう 2014-02-10 21:11:15
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