さまよえる黄昏
ichirou

午前2時
風にのって同報無線が聞こえてくる

行方不明の方の情報が明かされる

パジャマ姿 86歳のおばあちゃん

念のため外へ出ると
パジャマではとても耐えられない寒さだ

そんな寒さは忘れても
絶対に忘れられない大切な何かを
探して歩いておられるのか

それがもう現実にないものであっても
私たちにとって虚構であっても
おばあちゃんは現実に探している
おばあちゃんには虚構は存在していない
すべて現実なのだ

私たちの意識でこのおばあちゃんを表現するなら
現実の世界と虚構の世界をさまよっている
旅人なのだろう

私は不謹慎にも 
このおばあちゃんの世界と私たちの世界が
共存する世界を妄想する

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 どうされましたか

 子供が高熱を出してお医者様を探しております

 そうですか
 すぐに先生が往診に伺います
 もう大丈夫です

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 どうされましたか

 急にお客様が20名もいらっしゃることになりまして
 仕出し屋さんを探しております

 それならお客様は割烹料理屋にご案内いたしました
 ご心配いりません

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まるで即興演劇のように
妄想の中で虚構と現実の世界がつながっていく

おばあちゃん
早く帰ってきて下さい
 




 


 






自由詩 さまよえる黄昏 Copyright ichirou 2014-02-09 22:55:45
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