◎繭
由木名緒美

長針が短針を抱くカチリ、という音
瞬間に羽包はぐくまれる世界の潮騒
すべて洗い落とした裸の鼓膜が
時の生誕に身震いする

今は何も知らなくて良いと
優しく目を覆う慈悲の手は
記憶の流氷に揺られながら
崩れ落ちた極地へと遡行していった

白壁に鮮やかな放物線を描く
花嫁のブーケ
煌く愛はすべて白鳥が運んでいってしまうので
楽園には成し得なかったそれらの残骸が
遺跡となり、そびえていく

たったひとつの成就で幕が下りるほど
奇跡は安らぎを否み焼き尽くすもの
瞼を閉じても震えるほどに
夢は繭を躍動させ、
悶えながら導かれる不全の先へと
踵を破りながらなお、
誤謬を織り上げたいと願う


自由詩 ◎繭 Copyright 由木名緒美 2014-02-09 02:22:21
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