花と風
aida

薄紫色の波紋で充ちる夕暮れ
うつむく甘い風の香り
きらり 遠くに灯り始める 光の粒
あめ玉のように 宝石のように
水の音は縒(よ)り合わされて舞い立ち
鳥は世界をひるがえす

今 胸から花が
 こぼれ
  こぼれ
   こぼれ咲く

押さえても
  あとから
   あとから
花は地面に落ち
   積もり
    積もり
途方にくれる
   私の足を絡めとる
 両手にあふれ
  両腕にもあふれ
息も止めそうなほど

花が一つ落ちるたび
私の体は花の房のようにほどけて
このままでは消えてしまいそうなので
急いで海に行きます
せめてこの花を しおれる前に
広いところ 大きなところに
還してやりたいのです

海は風が大きく吹いて
花は高く渦巻いて
やがて空にきえていくのを見ました
砂と水が鳴る
海と地上の境
西に熟れた柿のように輝く夕陽
東を染める深い紺色
金星が燃え立つ頃
私は誰にも語ることのない
もう一人の私とさよならをしました


自由詩 花と風 Copyright aida 2014-02-08 22:30:35
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