小雪舞う朝
藤原絵理子


じいちゃんが逝った朝
病室にばあちゃんの姿がない
窓の外は風にあおられた雪

あたしは瞳孔を確認して
お決まりのせりふを吐く
息子の白髪頭が傾く

「独りになったら
都会に行かんならん」
息子との約束

じいちゃんと暮らした
思い出詰まった町
ばあちゃんは離れたくない

看護師がチューブをはずす
すべてを取り去ると
じいちゃんはやっと人間に戻る

間に合わなかったのは
じいちゃんの好きな
おにぎりを握っていたから

ばあちゃんは走ってくる
曲がった腰もそのままに
駐車場を斜めに突っ切る

風呂敷に包んだ
じいちゃんの洗濯物を抱え
おにぎりを入れた袋が雪に揺れる

その姿を見て
息子が声をあげて泣く
あたしは涙をごまかしながら
清拭の看護師に待ての合図を送る


自由詩 小雪舞う朝 Copyright 藤原絵理子 2014-02-06 21:30:56
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