あの頃
藤鈴呼




あの頃 何でも出来るような 気がした
怖いものなんて 何もないような 気がした

脅える存在を 排除するかのように
飛び跳ねていれば 笑って いられた

誰かの悪口も 聞こえない位の 大音響の中
難聴の意味も分からずに 平衡感覚を失ったら

キーン キーン
頭の中が ハウリングを 起こした

それは まるで
中耳炎の 前兆を 思わせた

音がハウると どうなるのか 知らなかった
反響するホールは 永遠だと 信じていた

時が過ぎ
エコーなしでも ビブラート可能なことを 知った
ドラミングは たまに リズムを外すことも 覚えた

相変わらず ピアノだけは 弾けなかったけど
もう 爪弾きにされることも なくなったピアノ線が

透明に 
聡明に
空に浮かんでいた


自由詩 あの頃 Copyright 藤鈴呼 2014-02-02 16:02:37
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