神のいたずら
服部 剛
妻が一歳の周をつれて
立ち寄った鎌倉の教会に、入ると
お告げの鐘は、夕焼け空に響き渡り――
グレーのベールを被った修道女等は
晩の聖歌を歌い始める
祭壇に姿を現したのは
私達に洗礼を授けてから
新潟に引っ越して農業を営む
I神父だった
周を抱っこしながら
聖体拝領の列に並んだ妻は
(まさかここで…)と、息を飲み
眼鏡をかけたI神父の顔に
丸い瞳をじぃっと凝らし
両手に渡された聖体を
ティッシュに包み、ポケットに入れ
家まで車を走らせて
仕事帰りの、僕に渡した
静まり返った2階の部屋に、入り
丸い聖体を、口に含み
奇遇なる今日の日を
ゆっくりと噛みしめながら
舌の上で崩れゆく聖体――
瞳を閉じた僕の心に
沁み通ってゆく、一つの思い
(この人生を、風にあずけよう…)
神のいたずらは
明日も世界の何処かで
ひょっこりと、日々の狭間に
夢の場面を現すでしょう