歌 3
岡部淳太郎

夏のかかとは海を渡る
渡って向こう側の大陸へとたどりつく
潮くさいにおいに魚どもも逃げ出し
伸びる砂浜ほどの清潔さを持たない

夏のかかとは山を渡る
渡って峰から峰へと踏み越える
傲慢な思いに獣どもも逃げ出し
伸びる樹木ほどの敬虔さを持たない

夏のかかとは空を渡る
渡って太陽にまでたどりつくかと錯誤する
わが世の高らかな暑さに鳥どもも逃げ出し
伸びる入道雲ほどのふくよかさを持たない

夏のかかとがすべてを渡る時
汗は流れて不快なしみとなる
その過剰な思いに人びとは逃げ出し
伸びる背筋はひそかにこわばってゆく

もっと強く輝こうと急いで駈け昇る
そのかかとは地表からほんの少しだけ浮いている
その奥では
迫り来る秋への予感に脅えている



(夏の歌)


自由詩 歌 3 Copyright 岡部淳太郎 2005-01-15 22:29:08
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