駆け抜けたはずの夜
六九郎
少し肌寒い秋の夜。
澄み切った空気を吸い込み、久しぶりの深夜徘徊ランニング。
今日は5km走れるかしら。
最後まであきらめずに走れるだろうか。
徐々に高まる心拍数。
だけど、走るのをやめるのに充分な理由がおれにはある。
3km地点で立ち止まる理由がおれにはある。
それはどうしようもない切迫感。
12時過ぎの路上で、側溝に背を向け下ろすランニングパンツ。
周囲に人影はない。
人影があろうがなかろうがもうどちらでも構わない。
走る気力を奪われ、とぼとぼと歩き始めた俺。
括約筋はもはや液状物の漏出を食い止めるほどの緊張感を持たない。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけだが、明らかに尻に感じる異物感。
さっきまで俺の身体の中で人肌程度に温められていたはずのそれは、急速に冷やされ、冷やされたついでに俺の尻も冷やしている。
もう今日は帰って泣くかも知れんね。シャワー浴びながら、泣くかも知れんね。
明るい月に照らされた夜の道を歩きながら、
心の中で繰り返す、
澄んだ空気に星が瞬く夜。