独活(うど)と白湯(さゆ)
八布
いつもの店のいつもの席で
ちょうどよく酔ったその後で
独活の酢味噌和えという旬のものを
うすうす噛んで
うすうす僕は
ひっそりとニンゲンをやめるのだった
右の席からは仕事の話
左の席からは人生の話
がそれぞれ聞こえてきて
仕事と人生に挟まれてたべる独活は
霞のように淡くって
これではまるで仙人だ
仙人ならば俗世を離れて
親兄弟、友人恋人
コレクションから体重まで
すべて綺麗に捨て去って
雲の彼方に去らねばならぬと
うすうすと僕はニンゲンを
やめてみようとしたのだが
さてどうやってやめたものだか
その方法がついにわからず
お茶の代わりに白湯をもらって
それを一息に飲み干して
勘定を済ませて表に出ると
一月の冷たい風が
僕のニンゲンの顔に吹き付けたのだった