旱魃の夜
hahen


二度迎える零時には
広く全ての主語を解き放ち
わたし、や、ぼく、を
発音しないように
気をつけながら、
静かな旱魃に横たわって
そっと
息を引き取る

砂丘の青さに
ためらいの唸り声が
混ざり込む
眠り続けている人たち
煙草の先が燃えなくなると
ほんの少しの水分を求められて
指先がひっそりと乾いていく
眠り続けている人たち
安らかにこだましていく
一つの樹木も、草地もない
大平野を駆けて
記述の手を乾かし、
冷たく、火をつけて
眠り続けている人たち
その時水は
欠乏しているだろうけど
惜しみなく流し込んでいけ
動かなくなるまで

海の見える街に夜は来ない
陽気で跳ねるような連弾の言語が
あらゆるものを流していく
過ぎ去るのは故郷を忘れて
どこまでも飛んでいく偏西風に、
ひんやりと濡れた砂泥、そして
聴き取られない子音
暗みの底から
這い上がってくる足音のいっさい
誰の手にも、そしてどんな筆を持っても
どんな紙にだって書きつけられない
主語だった言葉
亡霊たち

一度目には寒波の下で
冷たく燃え上がる炎を前にして
誰もが射精する
二度目には厳かな態度と
洗練された身のこなしで
乾いてなお熟す言語を得る
その時までに
閉じられることのない
唯一の学識が大洋を渡る
全部、全部、
初めから手にしているものだけ

煙草の煙が砂塵となって
広く全ての音と、水分を
砂漠の平野から
撫でるような手つきで
取り除いていくけれど
細く、果てしなく長い吐息の
終末まで、そして炎が
芯から冷え切って
風に千切れるまで、
ひび割れた唇から漏れる
わたし、
を奪われないように
眠り続けている人たち
ためらわず、
動かなくなっても
眠り続けている人たち

吐息を大旱魃の
砂漠に預けて


自由詩 旱魃の夜 Copyright hahen 2014-01-26 00:45:16
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