雨糸
凛々椿

(心配、しないで)


手を絡める
舌が這う
異質が触覚を支配する
追いかける
余韻
雨の匂いがするんだ
朝から
曇っていて
ずっと


帰りのバスの道途中に
空き地に放置された証明写真機があるんだよ
それが不気味でね

あなたのはなし
黒い傘が 佇んでいる
(そうだね)
あなたの背後でずっと顔を 覆い隠してる
(不気味だね)
答えるふりをして 私の
視線は黒い
傘に
雨は
まだだ


昨日までは 晴れの予報だったね

 
いつものように
あなたは帰る赤いバスに乗って
知らない町へいつものように手を振る 
笑顔が
網膜に残されて
会うたびに 
死なないでよ
と 
肩を引き寄せるあなたのぬくもりに私はいつも
後悔するんだ


ごめんね


ぽつり
ぽつん
頬を爪先を
空が濡らしはじめる
切らした息のように少しずつ
不規則に
降られてもいいように傘を持たせればよかった

ほんと気の利かない女だ
私は


ひとつ
ふたつと傘の花が咲き揃って 靄に
黒が
混じリ込む
指は
震え て


そろそろ
バス
は 空き地の前を通り
過ぎたのかな
近いうちに一緒に乗せてね
見てみたい んだ
あなたと赤いバスに乗って 早く
見せて
お願いだから早く
(気をつけて)
早く!
私は
(死なないで)
私は
いつかのやさしい言葉たちをのどに 震わせて
黒い傘の
まぼろしを 振り仰いだ




自由詩 雨糸 Copyright 凛々椿 2014-01-08 19:48:42
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