身辺雑記より(十)
たもつ

定期入れから定期券が消えた
そんな話をかつて書いた
どんな些細なことにも顛末というものがある
発端は結果を生み結果はまた何かの発端となり
僕らの日常は限りなくその繰り返しだ
例えば僕らの誕生の顛末は必ず死であり
それはすべての生命に与えられた平等といえる
死をもってその生命の所有する世界は閉じられるが
依然として他者の世界は閉じられることなく
死によってもたらされるいくつかの成り行きは
他の世界へと引き継がれていく
君と僕とは長い間一緒にいすぎたのかもしれない
長い間というのがどのような基準をもって計られるのか
それは定かではないそれでも
既に君は僕の一部であり僕は君の一部であり
僕らの世界はそのように成り立っている
幾千のセミの声が鳴り響く境内
僕らは思い出や思い出に似たものについて語り合った
誰かによって拾われた定期券は失効していたそうだが
僕はそのことについて何の確認もすることはなかった
やがてすべてのことを話し終えると
手を繋いだ僕らは石段の一つ一つを丁寧に降りて
振り返ることも無く
そのままどこかに行ってしまった





(参照)
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=27078



自由詩 身辺雑記より(十) Copyright たもつ 2005-01-13 20:33:51
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