月ひとつ放り捨てたか 夜半の空
板谷みきょう

朝起きてテレビを点けると
ドキュメントをやっていた

2011年に何かの賞を
受賞した作品らしい

「記憶障害の花嫁」というタイトルで
車椅子の女性が映し出されている

年末でぼんやりと見てたが
その女性の面立ちや喋り方に
数年前に札幌から
田舎に帰郷した車椅子の
明るい女性を思い出していた

十代で事故により高次機能障害を抱え
リハビリしている姿が映し出されている

その女性の姿の下に
「萩田つかさ」と名前が出た時に
ボクは腰を抜かすほど驚いた

思い出していた本人だったからだ
当時と同じく
笑うと顔をくしゃっとする癖が
チャーミングに見えたことを
思い出しながら見ていた

「記憶障害」があって
記憶の保持が難しかったことを
このドキュメントで初めて知る

…とすると
「自立センターさっぽろ」の頃に
会ったことも
覚えていないかも知れないなぁ

画面から伝わってくるのは
道東にある故郷に帰っても
頑張って幸せに
暮らしてることだった

あっ!
彼氏ができたんだ

へぇー
反対を押し切って結婚したんだ
彼女らしいなぁ

番組が進むのと同じ進み方で
彼女の近況が
少しづつ伝わって来る

ふうーん
そうかぁ、妊娠したんだ

そういや
彼女と会った時に
障害はいつからかを聞いたら
高校時代の事故からだと話してくれ
デリケートでプライベートな処に
土足で立ち入ってしまったような
とっても
気まずい思いをしたことがあったなぁ

あの時は幼少時の事故で
障害を抱えたまっちゃんのことを
慌てて話したっけ

まっちゃんって人が居て
彼は
ヨチヨチ歩きの時に事故に会い
事故のことは 覚えてないって

事故の記憶があるということは
健康に暮らせていたことを
覚えているということで
それは
障害を抱えた不自由な現実を
受け容れ難い壁になり易い

なのに
萩田さんは凄いなぁ

そんな話をしたんだった

覚えていてくれると
嬉しいなぁ





えっ!!!
何っ!

出産したのに
28歳で亡くなった?!

いつ?!
2011年??
三年前?





知らなかった…




でも本当なの?

慌てて携帯に電話したけど
コール音だけで出ない。
仕方なくメールした

番組は、塩田明彦という監督が
萩田さんのことを映画にして
2014年に
公開するということで終えていた

ドキュメントや映画や書籍で
生き様が後世に残ることは
素晴らしいと思うけど

例えば
まっちゃんのこととか
重度の脳性麻痺だった
茶木豊子さんのこととか
末期がんで苦しんでいる
バンちゃんのこととか
 
不自由で困難な暮らしを
余儀なくしている
沢山の人たちのことに
想いを馳せるしかない一日だった

       (萩田つかさ嬢に繋がるすべての人に捧ぐ)


自由詩 月ひとつ放り捨てたか 夜半の空 Copyright 板谷みきょう 2013-12-31 00:49:04
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