錆びた車輪
いねむり猫

さびた車輪が 降り積もった時間を振り払い 
重くきしむ

巨大な動輪が レールの上をわずかに揺れて 
危険な過去の岩石たちを粉々に砕く

車軸に浴びせられる 熱いオイルの飛沫が 
すでに赤熱しているカマドをなめて 白煙を挙げる

動くために創られ 
閉じられた部屋の中で 動くことを 自らに禁じてきた

その矛盾は 鋼鉄の体の隅々まで満ちて 
己を 損ない 朽ち果てることを 受け入れ始めていた 

だが 年月と不安に耐えた この車輪が
今 動き出すのは 必然なのだ


錆びた車輪が 動く
解き放たれようとするその力
縛り付けていた過去の澱みさえ その予感に激しく振動して 蒸発する
命尽きようするものに 命を吹き込め


何処へ行くのか 
何のために
そのような問いこそ 殺してしまえ

ただ 動くために創られたものは
ただ 動けば良いのだ

遺伝子に刷り込まれた 成長と運動のベクトルだけで
他に命じるものなど何もない

ただ 動けば良いのだ
体が どのように動けば良いかを 明確に叫んでいる
その声に従い 無用な心の反論に耳を貸すな 
その心の声の連鎖が 自分だと言うのなら 
今こそ 己を殺せ

生き返る細胞たちは その力が尽きるまで増殖を繰り返す
そこに心が入り込む余地などない

生まれてきて そして死ぬのだ

未熟な心は 決して体を殺せない 

今日のおまえは 昨日のおまえとは異なる生だ
そして 今日のおまえが明日に続いている保証もない

だから 動き出すのだ 錆びた車輪をきしませて
ただ 動き そして 動きながら体に問うのだ
どこへ行きたいか と

そして 力尽きたら ただ眠れ
目覚める保証もないが 
倒れるようなその眠りは おまえが求めた あの眠りなのだから

錆びた車輪が 動き出す

動き出した動輪が 全ての過去を砕き 
生きることの本来の賭けへと進むのだ

一拍の鼓動が次につながる保証のない 生の賭けへと




自由詩 錆びた車輪 Copyright いねむり猫 2013-12-23 21:39:38
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