月の子供
カワグチタケシ

*
朝のメトロの構内へとつづく階段で
イヤマフをはずした瞬間に
流れこんでくる新鮮なノイズ
「あ、地球の音」と彼女は思う

落し物をしてかがみこむ人を
よけながらホームへ降りる
マスクのなかの湿った息が
くちびるを潤す

彼女は月の子供
昨夜は団地の中庭で
双眼鏡を握りしめ
月を見上げていた

ノイズの届かない薄い大気を
乾いた微細な砂粒を想う

**
長靴をはいて団地の中庭に立ち
月を見上げているとまるで
魚たちが回遊する
水槽に囲まれているみたい

小さな窓のひとつひとつに
灯された小さなあかりが
うろこをひるがえして泳ぐ
魚群のようで眠たくなる

そして未明のテレグラム
朝焼けを乱反射する天気雨

ふりかえれば虹が
西の空にかかっている


Contains sample from P. Sinfield


自由詩 月の子供 Copyright カワグチタケシ 2013-12-21 00:06:44
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