火焔茸
ゴースト(無月野青馬)

生涯で一番恐れていたこと
生涯で一番忘れたくないことを
自分で
認知出来なくなって
涎を口から垂らすようになったら
安楽死させて欲しいと
「俺」は40代の内から遺言している


明日は来る
明日はあると
喧伝されて久しいが
明日は千差万別だと知らされていたか


お前の生きている今日は
生きたくても生きられなかった人の明日なんだよと
よく自殺志願者を説得するが
その人の明日は千差万別だと知らされているか


誰かの今日は
誰かの明日
自殺志願者は今日
生存者に格上げされているか


「弟」と「妹」は
無様な「俺」を見たくないと云う


千差万別の死の景色
千差万別の詩の景色
海鳴り
山鳴り
老人ホーム
鉄人だった「親父」も
錆び付いていて
上半身は現世にあって
下半身は冥界に踏み入れている
足から逝く
肺炎とのデッドヒートを繰り広げている


脆くも崩れる
諸行無常
盛者必衰
その摂理
脳裡に残響
剣岳の残映
足から逝く


ううむ、ううむと唸るだけ
その様態の己を
「親父」のように
無我のままでもがく己を
想起してみれば
「俺」は「もがく俺」を
安楽死させてやりたいと思う


オランダは理想的だと
「弟」と「妹」は云う


「俺」は云った
唸るだけの己は
オランダに行かせてやって欲しいと云った


生涯で一番恐れていたこと
生涯で一番忘れたくないことを
自分で
認知出来なくなって
涎を口から垂らすようになったら
安楽死させて欲しい
「俺」は
40代の内から遺言しておく


(「兄」自身の手で)
(40代の内に)
(提出された遺言書)
(これにより)
(合法的に)
(「兄」にも)
(硝子の翼を)
(与えることが)
(出来た)
(「弟妹」)
(役員「弟妹」の)
(円卓会議)
(後は)
(頭を壊すだけだと)
(結論付ける)
(後は)
(カエンタケを)
(与えるだけだと)
(結論付ける)


千差万別の死の景色
千差万別の詩の景色
海鳴り
山鳴り
老人ホーム
剣岳
諸行無常
盛者必衰
摂理
脳裡
残響
剣の残映
家族の集合画
鉄人だった父親
オランダは理想的だと云う弟、妹
40代の内から遺言しておく兄
家族の肖像
上半身は現世にあって
下半身は冥界に踏み入れている家族の肖像
足から逝く
足から逝く
兄から逝く
カエンタケが卓の真下に置かれた切り株に定着し密生し呼吸していた






自由詩 火焔茸 Copyright ゴースト(無月野青馬) 2013-12-20 20:02:57
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