ストレンジャー・ザン・サイレンス
ホロウ・シカエルボク
生きる理由を探していたら歳を食った
疑問符にこだわっていたら嘘に取り巻かれた
嵐のような風が吹く12月をあてどなく彷徨い
街の外れにたどり着いたら張り詰めた空だけがあった
身体の痛みは歩き過ぎたせいだろうか
冷たい空気を吸い込みすぎたせいだろうか
過敏に空気を気にするやつが増えて
顔を隠した行列のパレードだ
なにかを阻んだところで
ほかのなにかに脅かされるだけなのに
本当に狂っているものは騒がしくない
怖ろしく、怖ろしいほどにしんとしているものだ
真夜中にふとすべての音が途切れていることに気付いたときみたいに
怖ろしく怖ろしくしんとしているものだ
神の話をするやつらが時々部屋のベルを鳴らす
退屈なときには話を聞いてみる
彼らは平気で悪魔を除外する
そいつが居なければ信仰の理由だって判り辛いだろうに
この世には実に様々な種類の神が居て
そしてそれぞれが唯一だと信じ込んでる
検索窓に「神」と打ち込んで探させてみると
どれだけヒットするかやってみたことがあるか?
昨日は雨が降った
うんざりするくらい冷たい雨が
それは心中にこっそりと潜む殺意に似ていた
驚くほどに鈍く光る
長く居座ったままの殺意に似ていた
殺し合おうぜ
この世を
生き残ったやつらのためだけのものにすればいい
そのほうがみんなスッキリするさ
無差別級なら手段は問わずさ
体格、精神、スキルのハンデはそれでだいたいクリア出来るさ
足元の蛙を踏み潰した
半分萎んだ風船が破裂するような音がした
北の山に向かう一直線の国道をしばらく歩いた
近くの処理場から煙が上がっていた
なにかが燃やされている…なにかが
おそらくは弁解の余地も無く徹底的に
徹底的に徹底的に徹底的に灰になる
首元をしっかり閉めても
冷たい空気が入り込む
生きている限りはたぶん逃れられない
炎の前に立っていたことがある
炎の前に立っているのが好きだった、子供の頃
セメントで出来た古い焼却場の窓をずっと覗いていた
踊る炎と燃えてゆく廃棄書類をずっと眺めていた
子供らしい興味なんか露ほども無かった
ただただ、ただただ、ただただ、揺らめくそれに魅せられていた
燃え尽きるまで見つめていることが出来た
一度
女の教師が通りかかって
俺に面白いのかと尋ねた
俺は口を開けずにただ頷いた
女教師は微笑んで去っていった
おかしなガキだと思ったことだろう
焼却場が新しい安全なものに作り変えられて
俺は炎を見つめることは出来なくなった
今でも思い出す、あの
眼球に挑みかかる炎と
すべてが燃え尽きた後の黒い炭と白い灰
風が吹くと少し弾けて
馴れ馴れしくあたりを少しだけ舞った
小さな橋を渡り、汚れた川を見下ろし
道の駅の脇を抜けて
映画館の廃墟にたどり着く
入り口付近が半壊したその建物には
スクリーンと数列の椅子しか残されてはいない
俺は時々そこで映画を見た
3-12に腰をかけて
3-12にいつも腰を下ろして
映画に出ているのはいつも俺だった
上映されているのは
俺がこれまでにしてきた良し悪しだった
不思議なことに
現在の枠から逸れたそいつらの振る舞いは
まるで俺とは関係ないことに思えた
もちろん
そうではないままのいくつかのこともあった
だけどたいていの場合それはつまらない代物で
見ている俺が浮かべているのはだいたい苦笑だった
俺はそこに居るときだけ煙草を吸った
そこらに灰を撒き散らしながら映画を観た
灰は少しの間馴れ馴れしくそこらを舞ったあと
冷たい女のようにすぐに居なくなった
夕暮れ時が始まると
上映時間は終わる
ナイト・ショーは無かった
ナイト・ショーはいつだって
となりの席の背もたれで火を消して吸殻を弾き
立ち上がって身体をはたいた
「本日の上映は終了しました」
狂ったような満月が
崩れた屋根の上からこちらを覗き込んでいた