距離感いろいろ 5篇
クナリ
<ふたりのテーブル>
なんとなく用もないのに
無性に話しかけたくなって
でも何も用がないのに話しかけたら
あきれられるんじゃないだろうかと怖くなって
コーヒーが飲みたいと言ったら
いつも
面倒がりもせずに淹れてくれて
それは本当にありがたいのだけど
この人は本当にコーヒーが好きなんだな
などと思われているんではないかと
不安にもなる。
<足音>
部屋の外から響く
あなたの靴音を
聞き間違えて見知らぬ人だったときの
気恥ずかしさと
申し訳なさときたら
その足音で
あなたの気分さえも知ることができるという確信が
ゆらぐゆらぐ
あなたの前で
自信満々で笑えなくなる
萎縮する私のしぐさに気づき
それを真っ先に気遣ってくれるのもあなたで
「罪悪感の共有でつながろうとは思わない。
何かあったのかもしれないけれど、言いづらいことなら言わなくてもいい」
そう言ってくれるのはとてもありがたいのだけど
いやもうごめん
ぜんぜん大層なことじゃないんだよ
ただの足音の
聞き違いの話なんですよ
一人で苦笑してから
そんなことを白状して
ようやく
二人で笑う。
<後ろ姿>
つまるところ
あなたの後ろ姿を見ているときが
僕が一番僕らしい状態で
あなたを見つめられるときなのでしょう
見つめ合えば
もう僕はすっかり僕ではなくなってしまう
それでも
あなたの後ろ姿を見つめながら
振り向く瞬間ばかりを待っている。
<痴話げんか>
そのうちいつかしてみたいものです
私にいっさいを譲ってばかりの
薄情者のままのあなたとでは
かなわないことですからね。
<傷心>
ほらね
こういう思いをする羽目になるから
一人で居続けようと思ったんですよ
取り返しがつかなくなると分かっていたから
また会いましょうね
せめて
夢の中などで
お幸せに
それは
本心です。