窓の断章  その一 −飛び立てない君に−
のむ

1.
  窓は開け放たれたイメージ。閉塞から開放された心象。しかし、窓は開放されるわけ ではなく、閉ざされた窓ももう一つのイメージであることは確かなことである。閉じら れた窓の内部空間は、充満した物質によって一気に圧力が高まり、渦巻状に旋回してい る。閉ざされている窓は、外からの外観にストレスを示しているに違いない。窓が解き 放たれた瞬間、内から外へ内に詰まった物質は、高まった圧力によってわれ先にと流出 していく。
2.
  開け放たれた窓辺は、飛び立つ瞬間のイメージ。飛び立つには、飛び立つ力が必要で ある。窓辺は、飛び立つ者と墜落する者との境界となる。飛び立つ翼は、未来への意志 と気力。それは、内部空間の充実に懸かっている。飛び立つ未来へ、外部を見つめる目 は、果てしなく幻想する。飛び立てなかった者は、窓辺に佇んで、幻想することに慣れ てしまった。飛び立つ意志も気力も失い、幻想を未来に置き換え、飛び立つことを忘れ て、内部空間に棲息ことに埋没する。
3.
  窓は、外を映す鏡である。青い空と白い雲、緑の草木と色彩々の花、季節のスライド ショーのように映し出す。飛び立たなくても、外部を映し出して見せてくれる。外部は 映し出されるように、圧倒的圧力で内部に侵入して来ようとするが、窓はその外部を遮 断する。閉ざされることで、不必要な恐怖に慄かずに内部は保護される。外と内は圧力 は均衡し、安心して内部から外部を眺められうる。
4.
  窓のない部屋は、かって考えたことのない現実。完全に閉塞した空間。あのアンネ・ フランクの恐怖に慄きながら窓を遮蔽した空間とも異なる。外部を映すことも、覗き見 ることもない。窓は無視され、存在すら期待されてはいない。外への眼差しは四方を囲 む壁に阻まれ力なく落下する。窓は、閉ざされても、外への眼差しがある。窓のない空 間はその眼差しを失っている。断じて、窓は外部への眼差しである。外部と内部を遮蔽 しようと、眼差しは、外へ向かう。内から外へ、眼差しは志向ししつつ、気力を貯え、 時を待つ。高まった圧力が外へ膨張し、窓を開け放つとき、飛び立つ時が来るのだ。


自由詩 窓の断章  その一 −飛び立てない君に− Copyright のむ 2005-01-10 19:27:11
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