万年筆をなくした
因子

万年筆をなくした
千円でカートリッジ式のやっすいやつだけど
ここのところ頼りっぱなしだった
机に散乱する
紙切れの上のどうでもいい書き置きも
ちょっといい店で買った
分厚い表紙のノートの中身も
そこら中に彼女の筆跡があるから
ふいに目に入ってつらい
私の手は
相手に合わせる女で
その無愛想な黒い軸にそっと身を寄せて
愛しい字をたくさん
たくさん生んできたのだ

私は今日
彼女の捜索をあきらめて
ほかに何をしたらいいのか分からずに
この日曜を終えようとしている


自由詩 万年筆をなくした Copyright 因子 2013-11-10 18:45:27
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