広辞苑
アマメ庵

ふと広辞苑がほしいと思った。
いや、学生時代からもほしいとは思っていたのだが、いつしかその欲求は薄れ、また思い出したのだ。
単に国語辞典が必要と言う訳ではない。
むしろ仕事上はなんら必要もない。
でも欲しい。
電子辞書やCD−ROMなどに収録されたナンパな奴ではなく、卓上で邪魔としか言いようのない存在感を放つ紙の広辞苑が欲しい。

あなたの家、あるいは実家には広辞苑があるだろうか。
わたしが子供のころの友人の中には、広辞苑を持っている人が少なくなかった。
その多くは、就学時に祖父母からむやみな期待と共に贈呈されたものと察せられる。
大きな家に住んでいた友人宅には、彼のために与えられた部屋の本棚にブリタニカ百科事典さえ鎮座していた。
広辞苑はデカい。
普通版でも、タウンページよりも大きく、重い。
ランドセルに入れようとすれば、ほかの教科書その他一切を廃さねばならず、携帯は不可能といえる。
学習机の上にあっても、他を圧倒する存在感を放ち続ける。
開いて使用するにも、重たくて、億劫だし、内容は大人向けで面白みに欠く。
即ち、友人らが所有していた、重い期待と物質的重さを伴った広辞苑は、あまり日の目を見ることがなかったのではないだろうか。
そして子供だった彼らに、その取捨選択の判断が委ねられたら最後、日の目を見ぬまま古書店に持ち込まれるのかも知れない。

わたしの家は、金持ちではないが特別貧乏でもない。
いわば中流だ。
両親も祖父母も優しくはあったが、教育熱心とは言えない(それは概ね歓迎すべきことだ)。
そして、わたしは広辞苑を与えられなかった。
わたしが学生時代愛用した辞書と言えば三省堂の新明解国語辞典だ。
ほかには旺文社漢和辞典と同社エッセンシャル英和辞典などを使用していたが、いずれも母が中学時代に使用していたというお下がりだった。

ちなみにこの広辞苑、第6版の普通版(小さいほう)で8400円する。
机上版なら13650円だそうだ。
安くはない。
新明解国語辞典なら3150円。
同クラスの大辞林と比べないのは不公平かも知れないが、単に国語辞典としてなら、新明解程度の小型辞典でなんら不便なく、広辞苑にしろ大辞林にしろわたしには活用しきれないし、デカくて、邪魔で、かつ高い。
いまやわたしもスマートフォンを持っている。
現代技術の結晶とも言うべきスマートフォンさえあれば、わからない語句を調べることに不自由はしない。
何年か前にテレビショッピングで買った辞書が100冊くらい収録された電子辞書だってもっている。
読めない字だって、タッチパネルに直接真似て書けば検索できるのだ。
冷静になればなるほど、広辞苑なんて不要じゃないかと思う。
きっと学生時代にもそれは分かっていたから、おねだりして買って貰ったりはしなかったのだと思う。

ふと広辞苑が欲しいと思った。
今、わたしは大人になって、8400円というのは安くはないが自由にできる金額になったのだ。
ひとり暮らしであるし、広辞苑が部屋の中で邪魔だと怒られることもない。
今わたしは、インターネット書店であるAmazonのサイトを開いている。
あとワンクリックさえすれば、憧れの広辞苑を手に入れられるのだった。

以下にwikipediaから広辞苑の概要を転記する。『昭和初期に出版された『辞苑』(じえん)(博文館刊)の改訂作業を引継ぎ、第二次世界大戦後新たに発行元を岩波書店に変え、書名を『広辞苑』と改めて出版された。中型国語辞典としては三省堂の『大辞林』と並ぶ両雄で、携帯機器に電子辞書の形で収録されることも多い。収録語数は、第六版で約24万語。出版以来版を重ね、国内はもとより、海外の社会情勢や約3,000点の図版、地図などを収録し、百科事典も兼ねる働きを持っている。』


散文(批評随筆小説等) 広辞苑 Copyright アマメ庵 2013-11-06 10:18:57
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