手入る頭引き図ッ手永る不羽毛
狩心

日々の現実が嫌で嫌で
 考え抜いた者が
行き着いたものは
 物質への憧れ

何かを思うより
何かに触れていたい

家の近くの
何の変哲もない公園のフェンス
それを手で触って
握りつかむ
手を離して
四つの指先でフェンスをなぞる
目をつむり
これだった、と思う

目を開けて
遠くの電信柱を見る
見ているだけでなく
それに触れてみたい

目は
見る器官ではなく
物質から放たれた光に
触れる器官
耳は
聞く器官ではなく
物質から放たれた振動に
触れる器官

家の中で一人で
画面の先にいるあなたに触れると
その場に
私も居たいと思う

ベランダから町を見下ろす

子供の頃
公園でみんなで鬼ごっこをした
円を組み、面と向かってジャンケンをして
鬼を決める
鬼になった人は
他の人を一所懸命に追いかける
この大きな惑星の皮膚を踏みしめて
あなたに、近付こうとする
触られたあなたは、代わりに鬼になる
そしてまた、追いかけっこ

物思いに耽り 風を感じる

着替えて夜の町に 繰り出す

行きつけの店で色んな話を する

日本酒を握り
自分の顔にぶっかける
ひんやりと冷たい
自然と笑みがこぼれ
それを見た皆も笑った

そんな話が
あっちゃいけない それは何故か

店を出た私は
力一杯背伸びして
空気を吸い込み
 顔を上げた
そして物凄い速度で頭を下げて
すかさず物凄い速度で頭を上げた
 グキリと音がして
目の前が真っ暗になった

 夜の町

 光も振動も 匂いも味も 無い場所で
 指先だけが
 冷たいジメンに触れていた
 この惑星の皮膚
 人という硬い甲羅に覆われて
 覆面のパトカーは
 消防車と救急車を追い掛ける
 触れたら
 裸の私があなた、の代わりに
 鬼になって
  本当のあなた、を追い掛ける

(本当なんて、どこにも無いのに…)

  どこにも存在できないあなたに触れて
  握りつかむ
  その手を切り落として
 切られた断面から滴る無数の命の
 シをなぞる どこにも存在しない手で
 これだった、とつぶやく
 私はそれを聞く事ができない
 それを聞く事ができるのは
  あなただけ、


自由詩 手入る頭引き図ッ手永る不羽毛 Copyright 狩心 2013-11-01 15:21:32
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