墓地の壁
岡部淳太郎
近所には小さな墓地があって
近所には野良猫がたくさんいて
墓地の奥は鬱蒼と暗く
木々が生い茂り
墓地を取り巻く壁は
どこまでも白い
その白さに毎朝
昇ってくる日の光が反射し
仕事に向かう途上で
目を細めなければならない
道を横ぎる野良猫たちの色は
白黒まだらだ
野良猫は夜に時々変な音を立てる
くしゃみだろうか
小さな動物でさえ病むことがあるのだと
ひとり部屋の中でぼんやりと思う
白かったはずの螢光灯の色も
次第に黄色くなってきている
春に死んだ妹は骨になって
実家の和室に黙って坐っている
あんなに色鮮やかな人生だったのに
白い骨になっていってしまった
白い無名の世界へ
暗い無明の世界へ
近所の墓地をぐるりと囲む壁は
相変らず白く
晴れた朝にはまぶしさに
目を細めなければならない
目を細めなければつらいのだ
ちゃんと見ていることが
日曜日にはあいつも
海の見える墓地の中に
そっとしまわれる
まだそこにいったことはないけれど
そこから見える海は
白く輝いているだろうか
この文書は以下の文書グループに登録されています。
3月26日