好き(俳優篇)
月形半分子
私はユースケ・サンタマリアが好きだ
ちょっと貧相で哀しい顔がいい
不自然な笑顔も私には心地好い
演技中の、意味もなくする困ったような顔もいい
けれど、一番好きなのは台詞を言い終える時の彼だ
私はユースケ・サンタマリアが好きだ
黙り込むように台詞を言い終える時の
あのユースケ・サンタマリアが好きなのだ
私は松山ケンイチが好きだ
人と会えば心の言葉をそのまま映すような表情豊かな目
まるで彼には言葉などいらないようだ
だからだろう。何も写さない時の目を見たいあまりに
私は彼の映画を見るのだ
偉丈夫な者の手がひときわ美しいというのも私に感動をくれる
若者の口が一分の隙もなく閉じられているのも好ましい
けれど私が一番好きなのは聴衆に向かって立つ彼だ
私は松山ケンイチが好きだ
背中の表情までわかるほど、真っすぐに立つ
あの松山ケンイチが好きなのだ
私はリチャード・ギアが好きだ
あんなに優しい目は見たことがない
笑うとちょっとださいほど優しく見えてしまうリチャード・ギアが好きだ
少し頬っぺたが丸くて、赤みがあって
そんな頬っぺたをたっぷり膨らませて笑うリチャード・ギアが好きだ
けれど私が一番好きなのは
薔薇を手にしている時の彼だ
私はリチャード・ギアが好きだ
真っ赤な薔薇一輪が、彼の手のなかでは野菊のように見えてしまうから
だから私はリチャード・ギアが好きなのだ