好き(俳優篇)
月形半分子

私はユースケ・サンタマリアが好きだ
ちょっと貧相で哀しい顔がいい
不自然な笑顔も私には心地好い
演技中の、意味もなくする困ったような顔もいい
けれど、一番好きなのは台詞を言い終える時の彼だ
私はユースケ・サンタマリアが好きだ
黙り込むように台詞を言い終える時の
あのユースケ・サンタマリアが好きなのだ


私は松山ケンイチが好きだ
人と会えば心の言葉をそのまま映すような表情豊かな目
まるで彼には言葉などいらないようだ
だからだろう。何も写さない時の目を見たいあまりに
私は彼の映画を見るのだ
偉丈夫な者の手がひときわ美しいというのも私に感動をくれる
若者の口が一分の隙もなく閉じられているのも好ましい
けれど私が一番好きなのは聴衆に向かって立つ彼だ
私は松山ケンイチが好きだ
背中の表情までわかるほど、真っすぐに立つ
あの松山ケンイチが好きなのだ


私はリチャード・ギアが好きだ
あんなに優しい目は見たことがない
笑うとちょっとださいほど優しく見えてしまうリチャード・ギアが好きだ
少し頬っぺたが丸くて、赤みがあって
そんな頬っぺたをたっぷり膨らませて笑うリチャード・ギアが好きだ
けれど私が一番好きなのは
薔薇を手にしている時の彼だ
私はリチャード・ギアが好きだ
真っ赤な薔薇一輪が、彼の手のなかでは野菊のように見えてしまうから
だから私はリチャード・ギアが好きなのだ




自由詩 好き(俳優篇) Copyright 月形半分子 2013-10-26 02:43:11
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