生物室のゆうべ
マチネ
教室に這う蛇たちはいっせいに白い壁をあがりつつましい蛍光灯になってしまう。すっかり硬くなった彼らが行儀よく整列し彩りのない熱を放っている
わたしたちは激しく動くシャープペンに肥えた腕を操られつつ柔らかな教師の声を聞いている
南無妙法蓮華経南無妙法蓮華経
教室を舞う蜉蝣はいっせいに羽根をちらしいたましいブラインドになってしまう。虹を閉じ込めたあぶらぎった羽根が窓際に積み重なりざんざんとした音をたてる。光を閉ざしたブラインドからうめくように軋む音
わたしたちはシャーペンの誤った文字たちを消しゴムにのせられて消している
南無妙法蓮華経南無妙法蓮華経
壁は白い
床は白い
ドアは白い
血の気の失せた人の肌色
窓は透明
ドアにはめられたガラスの板も
すきとおった何かの体液
私たちはひたすらに経を聞く
南無妙法蓮華経
ノートをとらされ
南無妙法蓮華経
時折、それを消させられながら
南無妙法蓮華経南無妙法蓮華経
知らんぷりをして
南無妙法蓮華経南無妙法蓮華経南無妙法蓮華経南無妙法蓮
居眠りの学生のいびきとチャイムが声を打ち消す
さようなら
またあした