箱庭の花
岩下こずえ

階段の上から三段目であなたを見かけた。

みんなみんな燃やして庭の隅に埋める。徒花に
たくさんの水を遣る。可哀想だからといいかけ
て口を噤んだすべてはこの花のために。

そこはあなたのための温室だから、安心してい
いのよ、と丁寧なスカートの裾が語る。清潔な
へやの清潔なことばはどこか現実味がなかった
からきっと微笑むしかなかった。肯定のことば
しか決して口にしてはならない。

あちらこちらに遍在するあのこにあなたは目を
そらして耐えなくてはならない。その先がほし
いのなら、あるいは先送りとして。視るに耐え
ないその精神性をわたしはゆるしてあげる。ゆ
るすということはゆるさないということ。あな
たはどちらだって選ぶことができる。いつだっ
て。

わたしのことばにこころを傾けてはならない。
あなたは否定のことばしか口にしてはならない
。ここにはすべてがあって、けれどもあなたが
求めるべきものはなにもない。
あの夕暮れも最終列車のホームも屋上も四角い
へやの扉も雪の日の傘も歌声もなにひとつ知ら
なくていい。なにも理解しないままみんなみん
な灰になればいい。

可哀想な花のためにたくさんの水を遣る。ほん
とうのことは庭の隅にこの掌で埋めて、このせ
かいに遍在するものみんなみんな灰になればい
い。

階段の上から三段目であなたを見かける。わた
しは自由に選びとることができる。あなたもま
たさいしょからさいごまで、ゆるされている。


自由詩 箱庭の花 Copyright 岩下こずえ 2013-10-24 17:02:01
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