夕日  (詩人サークル「群青」10月のお題「無」から)
Lucy



そよとも揺れないすすきの穂が
あたりに白く浮かぶ

とおくを
スローモーションの足どりで
駆けて行く
赤いセーターを着た少女

お腹がみるみる膨らんで
まんまるになったかと思うと
ふわあと宙に浮いた

赤い風船は
穏やかに滲む灰色の空に
くっきりと浮かび
辺りを照らすことはしない

傍らで男がつぶやいた
「夕日だ」と

たしかに
このような夕日を見たことがある
と思った時
バンと銃声がして
夕日は粉々に飛散した

それが本当の銃声だったのか
夕日が自ら破裂する音だったのか
実はさだかにはわからない

地面に埋め込まれていた右足を
はじめて少し動かすと
掘られたばかりのジャガイモのように
生白い指が現れる

それから
さほどに暗くもならず
照らしだす光もないままに
ほの白く続く
無風の夜を
私は男と歩いたのだ


自由詩 夕日  (詩人サークル「群青」10月のお題「無」から) Copyright Lucy 2013-10-17 21:42:25
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