階段をおりたら
草野春心
階段をおりたら
つぎの朝がまっている
固く冷めたトーストをほおばり
しばらく逡巡した末テレビをつける
ドアをあけたら、いつもどおりの
灰色の道路がまっている
診療所ばかり並ぶ陰気な通りで
カラスがゴミ袋を突っついている
イヤホンの中でモリッシーがうたう
「The boy wih the thorn in his side」
前にも
後ろにも
いやなものだけ立ち塞がって
苦い気持ちになってしまう
きみのことを思うと胸が熱くなる
きみに似ている女を見るとたまらなく寂しくなるし
きみと同じように笑う女を見ると怒りで拳が固くなる
なぜ、彼女はきみじゃないんだと
階段をおりても
何枚のドアをあけても
前にも 後ろにも
なぜ、きみはいないのだと
朝を夜に変えることができたらきみに会えるかい?
トーストをうまく焼けたらきみに会えるかい?
きみに会いたいと もう願うことをやめたら
またきみは
ぼくの前に現れてくれるのかい?
布団をはいで
最初の朝日を浴びたら
煙草に火をつけ、心のなかを
しっかりと見回してみたら
ほんとうの自分の気持ちがまっている
たとえ それが 手に入らないものだとしても
それはまっている
階段をおりたら