階段をおりたら
草野春心



  階段をおりたら
  つぎの朝がまっている
  固く冷めたトーストをほおばり
  しばらく逡巡した末テレビをつける



  ドアをあけたら、いつもどおりの
  灰色の道路がまっている
  診療所ばかり並ぶ陰気な通りで
  カラスがゴミ袋を突っついている
  イヤホンの中でモリッシーがうたう
  「The boy wih the thorn in his side心に茨をもつ少年
  前にも
  後ろにも
  いやなものだけ立ち塞がって
  苦い気持ちになってしまう



  きみのことを思うと胸が熱くなる
  きみに似ているひとを見るとたまらなく寂しくなるし
  きみと同じように笑う女を見ると怒りで拳が固くなる
  なぜ、彼女はきみじゃないんだと
  階段をおりても
  何枚のドアをあけても
  前にも 後ろにも
  なぜ、きみはいないのだと
  朝を夜に変えることができたらきみに会えるかい?
  トーストをうまく焼けたらきみに会えるかい?
  きみに会いたいと もう願うことをやめたら
  またきみは
  ぼくの前に現れてくれるのかい?



  
  布団をはいで
  最初の朝日を浴びたら
  煙草に火をつけ、心のなかを
  しっかりと見回してみたら
  ほんとうの自分の気持ちがまっている
  たとえ それが 手に入らないものだとしても
  それはまっている
  階段をおりたら





自由詩 階段をおりたら Copyright 草野春心 2013-10-14 19:50:41
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