幽霊が豆腐を食べる
ヨルノテガム



一丁、二丁、三丁と豆腐はそこに残り在る。

 しかし、わたしは というと何もかもを忘れている
あれを失って過ぎ、またあれも失って過ぎて、たぶん
失ったことすら忘れているのではっ・・と過ぎ過ぎていった
ふらふら ふらふら 遊んでばかりいられないワ
なにかしなくちゃねぇ
何かしたことはきっと素晴らしく私らしいことだもの
些細で消え入ることにも意義を見つけ出せるかもしれないし
かたちがあれば 目をひらいて見つめるだけで
わたしを懐かしくさせ、再び初めてになって動きだせる
真っ白に冬眠していたんだワきっと




壁面みたく青白い豆腐がみるみる瑞々しさを復元し。

 しかし、わたしは というとうまく食べれないワ
うまく掴めないワを小声で何度も洩らしていた
ええい、こうなったら豆腐の周りでドンチャン踊っちゃえ
と〜ふ〜 と〜ふ〜 冷ややかにおすましして
座ってる〜 ちょこんと 白無垢に〜 角立てて〜
あっとそこへ 醤油をこぼしちゃったぁ
と〜ふ〜ん いやぁん
あっとそこへ 鰹節ぱらぱら舞い落ちたぁ
と〜ふ〜ん ばかぁん
ソレソレあそこへ 生姜をすりおろし
感じちゃぅ と〜ふ〜ん
あっという間にいただきま〜〜す
と〜ふ〜 と〜ふ〜 アタシは豆腐奴でございますぅ
チャンチャン。
と ひとしきり豆腐踊りをして過ごすと
わたしは渡り鳥が大海を渡り終えたかのようにスッとした




角ばった立方体の、白い透明感のある、一面に空虚を抱えた。

 そんな、わたしはというと
ソレを指差して すこしわらって
ソレを何度も崩しては掴み投げつけわらって
ホントは崩れても掴み投げつけてもいないのに
木綿ちゃんだの絹ちゃんだの名前で呼んで大声で呼んで
呼べもしないのに
ゲラゲラわらってキスしたり、泣いていた
喉仏まで「おいしいわ」と言う用意も出来ていたのに
口がうまく開かないな
目もよく見えなくなってきたな
冷えたソレとわたしは似てるな
などと などと
何かがわたしの中から静かに奪われて行くのを




柔らかなものが生まれ、柔らかなものが無くなってゆく。

 というのは わたしがねw
大好きな豆腐をペロリと食べちゃうんだよね
ああ おいしいわぁ
たぶんおばあさんになっても豆腐好きでたべるんじゃないかな
もう一つは明日の分。
キミの分も買っておいたから食べてみない?
どうぞどうぞ
では、最後のひと口を うん おいしかった
ごちそうさまでした
さーて元気モリモリ なにしようかな










 


自由詩 幽霊が豆腐を食べる Copyright ヨルノテガム 2013-10-13 06:04:00
notebook Home 戻る  過去 未来